第12章 ザ・デュエル

 ロフト・クローネ率いるシンドラ隊がサイド2のに散在する連邦の駐留部隊をことごとく粉砕し、サイド2の事実上の制宙権をその手中に収めたのは、3月7日になってからだ。最初の戦闘の直後に降伏勧告を出したが、この時はサイド2の行政も連邦の部隊を当てにしていたらしく、それを受け入れようとはしなかった。別にネオジオンを拒否したのではなく、事態の変化をよしとしない事勿れ主義の現れであるのは、連邦の腐敗を知っている人間ならすぐに判る事だ。しかし次々と防衛戦力が削がれていくうちに、その戦力の減少と比例して行政の態度も変わっていった。再度の降伏勧告でクローネがコロニーでの民間人虐殺、略奪行為を一切働かないと明言していたのも、その行政の判断の天秤の一方に大きな比重を加えたと言える。

 クローネはサイド2との正式な交渉の場に向かう直前になって、ネリナ・クリオネスからの報告を指揮官用の私室で受けていた。ヴェキを護衛として自分に同行させるか否かを決断するためである。
「・・・時々考え込んでいる?」
「はい。やる事がある時はそうでもないんですが、用事がないときは時折・・・」
 それは、ヴェキの監視における報告だった。ヴェキは戦闘で負った怪我が原因で、心身ともに危うかった。精神的ショックと脳障害は著しく、まさに生死の間を彷徨っていた。この男を助けるには、強化処置を行うしかない・・・その報告を軍医から聞いて、ヴェキに記憶操作と肉体の強化処置を施す事を決断した。
 強化処置には暗示や催眠による刷り込みもしくは記憶操作などの精神面の作業と、筋肉増強剤や対放射線剤などの薬物で肉体を強化する肉体面の作業がある。この行為自体に含まれる非人道的な側面は否定できなかったが、クローネは目の前で生命の危機にある人間を放置できるような性格ではなく、仮初めではあっても生を与えることを選んだ。
「ヴェキの本来の記憶との混同をできるだけ避けるため、催眠療法によって抽出された潜在的な記憶に近い環境をヴェキに用意したが・・・それでも刷り込みは完全にはできないか。」
 サイド2の制圧が完了できた事を手放しで喜んでいられるほど、クローネは楽観的な心境ではなかった。それに対して、ネリナは反論した。
「ですがヴェキの精神状態は、時折考え込むことを除いては安定しています。ティターンズから得られた強化人間のデータと比べれば、むしろ驚くべき結果かと・・・」
「それは強化の度合いが低いからだ・・・いつヴェキの記憶が混乱を来すのが判らないと言うのであれば、助けた意味がない。ヴェキは今も昔も、そしてこれからもヴェキでないといけないんだ・・・まぁ私が言っても仕方のないことだというのは、判っているがな・・・さしあたり、ヴェキはこの艦に残しておく。お前はヴェキの監視を続けてくれ。」
 ネリナは黙したまま敬礼して、部屋を去った。クローネは、軍医からの処置についての詳細な報告を読みながら、ヴェキという男の事について考えていた。
「今のヴェキが本当の記憶を取り戻したら、自我が崩壊してしまう・・・か。記憶が戻らない方がアイツには幸せなのかも知れないな。」
 こうして、サイド2との正式な交渉のために艦を発つ時間がやってきた。

 シンドラは最後の戦闘をサイド2の辺境で行ったあと、最初に戦端を開いた1バンチコロニーに戻ってきていた。シンドラを入港させずにランチで自分ひとりの身だけを移動させたのは、クローネがサイド2を完全に信用していなかったからではない。ネオジオン軍がコロニー各地へ制圧部隊を差し向けたというニュースがエウーゴや連邦正規軍の耳に届いないはずもなく、いつ後背からの襲撃を受けるのかが判らなかったからである。シンドラから出発しておよそ30分で、クローネを乗せたランチは目的地に到着した。それを出迎えたのは、スーツ姿の行政官だった。
「ようこそサイド2へおいで下さいました、クローネ大尉。サイド2のグァラニです。」
 鷹揚(おうよう)と言えるグァラニの態度を、クローネは好意的にとらえることはできなかった。警戒しているわけでもなく、どちらかといえば媚びるという表現が的確だろう。
「・・・よろしく、グァラニ行政官。」
「このサイド2は先のエウーゴとティターンズの戦闘で、甚大な被害を被っています。これ以上の戦闘はやめていただきたいのですが・・・」
 クローネはこの行政官の言わんとする意図を、即座に察した。
「補償が欲しいというのなら、安全保障税ということでどうだ?」
「は?」
「我々の属領となるに連れてこれから発生するであろう安全保障税を、たった今返してやると言うことだ。ただ、安全保障税の免除の代わりに、駐留部隊の補給だけはそちらにお願いしたいな。どうせネオジオンに下れば、連邦への上納金は払わなくて済むんだろ?」
「それは・・・」
 グァラニは言葉を詰まらせた。金を積んでくることくらいは覚悟をしていたが、同じ金で誘導するにしても現時点で存在しない金で交渉してくるとは思わなかったからである。クローネにしてみても、ワイロ程度の金塊は用意していたが、公的に大きな責任ある立場の公人を買収するつもりはなかった。その意味ではクローネは脅迫に近い態度だったかも知れない。
 クローネが察するに、どうやらこの男にはそこまでの決定権がないらしい。つまりこの男にも上役がいると言うことである。ネオジオンの使者が直々に会いに来たというのに、サイド2は最高責任者をクローネに引き合わせることもなく、交渉をしようというのだ。それは、無礼というモノであると思う。
(ネオジオンもナメられたもんだな・・・ま、それはそれで都合がいいか)
「まぁいい、その事は後で話し合おう。で、サイド2の方針を聞きたい。」
「は、はい。我々といたしましては、今まで通りの自治さえ維持できれば問題はないと言うことで・・・」
「多くは望まないということか・・・そこまで卑屈になる必要もないと思うが?」
 早くこの場を離れたいという衝動を抑えるので、精一杯だった。政治的な色合いのある仕事での疲労は明らかにMS戦の疲労とは異質で、肌には合わないという違和感を拭い去れなかったからである。だが、クローネが将来的に政治上責任のある立場を必要としている以上、慣れておかねばならなかった。
「そう見えますか?」
「見えるな・・・私は別に、サイド2を無理やり武力占領したくてここに来たんじゃないし、命が惜しければジオンに下れと脅迫する気もない。ま、従ってくれると言うのなら、それでいい。」
 クローネが本心の大部分を隠しているのはグァラニでも判ったが、それを追求しないと言うのがグァラニなりの処世術であると言える。
「最初の降伏勧告は、我々への責任追及を連邦にさせない為ですか?」
 この行政官が言ったことは、クローネの戦略の本質のひとつを的確に掴んでいた。クローネは最初に降伏を勧告することで、サイドがネオジオンの庇護を受けた事への言い訳にする材料を提供したのである。それに気付いたグァラニは、賢い男だと思った。彼の上役が萎縮や面倒がってグァラニに交渉役を押しつけたのではなく、上役には対処能力がないのではなかろうか。
「どうとるのかは、お前に任せる。」
「・・・・・・」
 クローネは消極的にグァラニの言葉を肯定し、グァラニも頷いて見せた。この時になってクローネは、自分がサイド2を掌握した後の内政の全てをこの男に任せようと決めた。クローネをはじめとする各地のサイド制圧部隊の指揮官は、サビ家の後見人であるハマーンのそのまた代理人として、サイドの内部に関する全権を任されている。現実的に考えても、制圧部隊のみでサイドを掌握して支配権を維持していくことは不可能だし、コロニーの人々の生活の全てを把握しきれていないクローネ達にとって、内政に関する仕事も楽ではない。どうしても内部の協力者が必要になる。その為の人事権は指揮官に与えられてしかるべきであった。もっとも、その権限を行使して万が一任命した人物が寝返りでもすれば、責任を問われるのは指揮官なのではあったが・・・。


 クローネの予想通り、サイド2奪回のために近付いて来るエウーゴの部隊があった。この頃の連邦正規軍は、内戦の後処理や最大の本拠地であるジャブローから各地に散った軍施設の再整備など、やるべき事は多々あった。できるだけネオジオンとの全面戦争を避けたいという閣僚達の本音が見え隠れしていたので、ネオジオンとの交戦の意思は徹底を欠いた。しかしそれは、全てが間違ったことでは決してない。経済的に余裕のない状態での開戦は無謀だというもっともな見解も、確かにあったからだ。
 連邦軍は何かと物量で押してくる傾向があったのでとかく経済力に余裕があるように見えるが、それは錯覚でしかない。戦時中に協力した民間企業や個人への税の控除や債権など有価証券という、現物や現金によらない戦後補償をせざるを得ないほどに、連邦政府の経済は切迫しているのが現実なのだ。戦争どころではない。
 エウーゴという組織が正規軍と”同等の扱い”を暗黙のうちに認められたと言うことは、それすなわちがエウーゴ=正規軍という図式を否定したことになる。結局の所、連邦の閣僚達にとってエウーゴとはあくまでも他人であり、エウーゴの活動がネオジオンとの和平交渉に何ら支障を来さない事も暗示しているのである。むしろ閣僚達にとってのエウーゴとは、その準備をするだけの時間を稼ぐためというだけの存在であるとも言えた。エウーゴの中でそれにいち早く気付いた人間が恐らくエネス・リィプスであったであろう事は、後に周囲の人間が証言していた事で想像がついた。

 ティルヴィングがサイド2の宙域にまで到着した3月8日の時点で、既にサイドはネオジオンの統治下にあった。皮肉だったのは、サイド2を統治しているのがクローネだったと言うことである。凡庸な指揮官であれば、自らの傘下にサイドを引き入れた後の処理に忙殺されて戦闘への準備が疎かになってしまう所だったはずである。しかしクローネは現在のサイド2政庁の長に早々と見切りをつけて、グァラニといういち行政官に内政における最高権限を与えた。そしてグァラニは優秀な男だった。半日もしないうちに政庁内を完全に掌握し、ネオジオン軍の兵士の苦労はほぼ皆無だったと言っても良かった。人事の妙とはよく言ったモノである。

 サイド2の宙域に入ってすぐのところで、シンドラのレーダーがティルヴィングを捕捉した。この時になってもクローネは、1バンチコロニーに滞在してサイド2の内政処理をグァラニと共に指揮していた。シンドラの指揮官代行として、ヴェキがキャプテンシートに座っていた。シンドラ内部でヴェキが強化人間であるという事実を知っているのは、クローネとネリナ、そして処置を施した軍医だけであったので、ヴェキが親友であるクローネの代理をすることに異論を唱える者は誰もいなかった。そのヴェキは副官として妻のネリナを横に従え、周辺宙域からの侵入者に対する迎撃の準備を滞りなく行っていた。
「中尉、エウーゴの艦が1隻でサイド2の宙域に侵入したとの観測班からの連絡が入りました!」
 オペレータの報告を聞いて、ヴェキはなにか予感めいたモノを感じていた。今の自分が感じている何かしらの違和感を戦闘中だけは忘れることができたと言うことは、違和感の原因は戦闘を行うことで掴めるかも知れないと思った。
 サイド2をネオジオンの傘下におくことに成功して、まだ1日しか経過していない。本国から本格的に増援が派遣されるまでは、まだ数日待たなければならない。その到着まではシンドラ1隻で事態に対処せねばならず、哨戒網も大規模に張れないのが現状である。それで敵の侵入を察知できたのは、幸運だとヴェキは思う。
「チッ・・・まだこっちは哨戒網を張れないってのに・・・もっとも、連中はそれを見越しての襲撃か。よし、MS隊全機発進!クローネの機体は使わせるな、シュツルムとCだけで撃退するぞ。」
 ヴェキはいまだ、クレイモア隊との戦闘は経験していなかった。だからエウーゴの中に突出した戦闘力を備えた部隊がひとつ存在していると言うことなどは、全く知らなかった。だからシュツルムディアスとガザC数機でなんとか撃退できるとタカを括っていたのである。ヴェキには、それを撃退できるという確信があった。

 ティルヴィング艦内は数時間前までの心地よい喧噪から、警報が鳴り始めると共に雰囲気が一変した。そのMSデッキの中に屹立しているリックディアスカスタム『死装束』のコックピットからは、チーフメカニックであるエリナが大声を上げながら、MS発進準備の指揮を執っているのが見えた。仕事に気持ちを向けているときのエリナは元気ではあったが、やはり見ていてやるせなくなってくる。エネスには見ているれ以上の事は、何もできなかった。
「彼女、壊れなきゃ良いけどねぇ・・・」
 不意に、レイの通信が入った。
「・・・ショールが惚れた女は強い女だ。時間が解決してくれる、それまでは見ているしかない。」
「ごもっとも・・・あれ?なんでフランベルジュには出撃命令がかかんないわけ?」
「1年前のグリプスでの戦闘を忘れたのか?前にばかり気を取られていると、オレ達が帰ってくる頃にはティルヴィングがなくなってる。」
 レイはエネスの言った闘いを思い出した。グリプスが要塞としてまだ機能していなかった頃、ティルヴィングはサラミス級巡洋艦2隻を随伴してグリプスを強襲した。その時はほぼ全機がグリプスに向かっており、ティルヴィングや随伴艦の防衛戦力は極めて少なかった。その隙をついてジムクゥエルカスタムでティルヴィングに奇襲を掛けたのは、目の前にいるエネスであった。レイがその可能性に気付いて先に戻ってきて、2人は初めて対決した。その時はレイの機転が功を奏して、なんとかエネスを撃退することができたのである。
「なぁるほど・・・ま、向こうもまだ準備不足ってのもあるか・・・」
「・・・」
 エネスはそれを表に出して、肯定しなかった。最初から大規模な戦力が派遣されていれば、迎撃の準備など半日もあれば整うからである。エネスの心配は敵戦力の規模であって、決して条件が対等に近いとは思えなかった。真実としては敵の戦力はシンドラ1隻だったので、その心配は杞憂に終わることになる。そうこうしているうちに準備は終わり、いよいよ出撃の時間となった。
「レイ、テメーは真っ先に出撃、オレ達よりも先行して一戦交えろ。防衛網の規模次第で一撃離脱を許可する。いいな、しくじるんじゃねぇぞ!」
 いかにもファクターらしい檄が飛び、レイもそれに答える。
「了ォッ解!ZplusCA2”マイン・ゴーシュ”、出るぜェッ!」
 射出、そしてマイン・ゴーシュは、すぐにファクター達の視界から消えた。信じられない程の加速力だ。
「スッゲ・・・・よし、ファクター機、出るぞ。整備班どけ、邪魔すんじゃねー!」
 機体に張り付いていたメカマン達を乱暴に引き剥がし、ファクター機はカタパルトデッキに上がって射出させた。それを見送ったエネスが出撃の準備を行おうとしているとき、そこにナリアからの通信が入った。
「大尉、レイを頼む。アイツはすぐ調子に乗るからね・・・」
「了解だ、コーネリア中尉。アイツのバカさはオレもよく知っている・・・エネス・リィプス、『死装束』出るぞ!」

「敵艦からMSの射出を確認、1機で信じられない速度で接近してきます!」
 シンドラのオペレータの報告は端末を通じて、MSデッキに移動したヴェキに届けられた。
「なに・・・・距離は?」
「6800!接触予定時間、およそ4分!」
「4分?バカな・・・通常の1.5倍以上の速度だと言うのか・・・MS隊、発進急げ!」
 言って、ヴェキは愛機のコックピットの素早く身を滑らせ、機内のチェックを要領よく省略しながら行っていく。モビルアーマー、そんな単語がヴェキの頭の中を駆けめぐる。嫌な予感がした。
「よし、シュツルムディアス出るぞ!」
 出撃の直後、ヴェキは続けた。
「後続は必ず来る、ガザ隊はそれに備えろ!オレはヤツを仕留めるッ!」

 レイは機体の機動性に翻弄されていた。Zガンダム系MSは元々推力が高く、量産機の試作機とは言えマイン・ゴーシュも例外では有り得なかった。むしろスラスターの増強など機体性能のバランスを犠牲にしたクセの強い機体だけに、WR形態での前進速度のみに関して言えば、Zガンダム系MSでもトップクラスと言えた。Zガンダム系MSでのトップクラスと言うことはすなわち、現時点での最速を意味する。テストパイロットとして様々な機体を乗りこなしてきたレイでも、味わったことのない感覚だ。胃袋が締め付けられ、嘔吐感は増す一方だった。レイは思わず、スロットルを緩めた。
「パイロットに死ねって言ってるようなもんだな・・・」
 どのみち目標が近くなっていたので、速度はこの辺で緩めても良いだろうとレイは判断していた。MS形態に変形をして、もう一度回りを確認してみた。
「ン・・・出てきたか!」
 それは、ヴェキのシュツルムディアスだった。出撃してきたヴェキ機はすぐさまレイ機を確認して、ビームピストルを連射した。姿勢の保持が手一杯だった状況だけに、その攻撃はレイ機を的確に捉えていた。真正面からの攻撃なので、”グングニル”は作動しない。
「なに、ビームバリア?」
 ヴェキは自分の攻撃が直撃したにもかかわらず、その目標のすぐ前で拡散したのを見て動揺した。
「お返し!」
 マイン・ゴーシュの右腕ラッチに固定されている大型火器、ビームスマートガンが火を噴いた。高機動、高火力MSの出現に、さしものヴェキも少し焦ったが、まだ敵パイロットがそれを扱いきれていないことがすぐに判って安心した。逆に言えば、機体になれる前に仕留めるべきだとも思う。
「・・・・・・!」
 BSG(ビームスマ−トガン)の射撃を右に水平移動をしてヒラリと回避し、この新型機との間合いを詰める方法を考えた。そしてそれは、すぐに見つかった。
「高機動なればこそッ!」
 シュツルムディアスの推進機を一気に全開にして、一瞬レイから見て左の方向へと機体が滑ったかと思うと、右、そして再び左にとめまぐるしく動いた。レイは一瞬、ヴェキ機が消えたような錯覚に陥った。
「しまった!」
 刹那、レイはエネスとの模擬戦を思い出して真上を見た。エネスと同じパターンだったようで、シュツルムディアスはレイ機の直上からビームサーベルによる攻撃を仕掛けるべく、急接近してきていた。左腕ラッチに装備されている高出力サーベルを抜いて、それに対処した。ビームサーベル同士が重なり合い、ちょうどつばぜり合いの格好になった。そこにレイが腰部ビームカノンで攻撃したが、咄嗟にヴェキは右への錐揉み回転でそれを回避した。2機が離れて、互いの間合いは最初に対峙したときとほぼ同じになった。
 その時、ヴェキ機に向かってビーム2本が放たれてきた。エネス達の到着を意味しているモノであることは、すぐ判った。
「あのディアスは!」
 エネスとファクターは、その見まごうはずのないフォルムを見て緊張の糸が瞬時に張り巡らされた。
「・・・揃いも揃ったか、エウーゴッ!」
 後方からガザCが3機、近付いてきたのを確認した。直後にヴェキは、白いゼータプラスに向かって再び前進を開始しようとしたが、それを阻む機体があった。それは目標と同じカラーリングを施された機体だった。
「オレが相手になる!」
 言ってエネスは、頭部のバルカンファランクスを斉射してすぐに間合いを詰め、ビームピストルを放った。
「・・・・!」
 それをヴェキ機が左への錐揉み回転をしながら回避し、前進しながらもビームサーベルによる突きを何度も連続して繰り出してきた。エネス機はそれらの突きをビームサーベルで受けたり、上体を逸らしてかわした。
「その突き、その運動・・・貴様、まさか・・・」
 滅多に動揺を見せないエネスの表情の変化は、当然だったかも知れない。シュツルムディアスのパイロットは以前とは明らかに別人で、そしてよく知る人物の機動だったからだ。
「ショール・ハーバイン!?」

第12章 完     TOP