第22章 サイド3の蜂起
宇宙世紀0087年8月、アポロ作戦に始まるティターンズによる一連の月攻略作戦は、失敗に終わった。しかしそれは、時代の新たなる展開の始まりでしかなかった。9月に入り、エウーゴとティターンズの間で繰り広げられている小規模な戦闘は、その頻度を増加させていた。
暗く狭い部屋に数人の男女が額を寄せて、テーブルを囲っている。それぞれの表情は沈痛であった。
「エウーゴはエウーゴでスペースノイドのための政治を掲げてはいるが、いかんせん数が少ない。これではスペースノイドの全体を救うことは出来ない。」
何枚かの書類に目を通して、リーダーらしき男が感想を漏らした。この書類は、コロニー各地へ散った同士から集められたティターンズの情報を、とりまとめたモノだ。
「確かに・・・現在のティターンズの動きは?」
リーダーの男、ユリアーノ・マルゼティーニの真向かいに座っている副リーダー、カリア・ホーキンスが、テーブルを囲わずに後ろに立っていた黒髪の若い女性に尋ねた。
「月攻略を断念して、現在サイド2への集結を始めています。」
「サイド2へ?」
ユリアーノが怪訝さを隠さずに、その女性に聞いた。この女性は、ユリアーノ達の組織の雑務を取り仕切っている女性で、名をクレア・ハリアと言う。入ったばかりの情報の総括をまとめてユリアーノに渡したのは、彼女である。
「はい、目的は不明ですが、アレキサンドリアを始めとした主力艦隊がサイド2への進路を取っています。これは数日前の情報ですので、タイムラグがあります。今頃は既にサイド2の宙域に到着しているでしょう。」
クレアは物静かに答えた。
「オレ達の『組織』は軍事ではなく、諜報の組織だ。だがその情報を活かすには武力が必要だな・・・」
ユリアーノの言う組織とは、3ヶ月前にサイド3で秘密裏に結成された『ピクシー・レイヤー』と言う諜報組織である。宇宙を飛び交う情報をとりまとめ、各地で活動している反地球連邦組織に渡すのが、彼らの役割であった。何分新しい組織であったが、一部の叛乱勢力とは繋がりは強い。グラナダのエウーゴ参謀本部へ情報を流していることも多々ある。先日のコロニー落としにおける詳細なコロニー軌道の情報は、彼らによるモノであった。今ここにいるメンバーはおよそ15人と規模は小さいが、各地に散った同志を集めると80人を越える組織である。そのメンバーの誰もが連邦軍の出身者であったり、元ジャーナリストであったり、ジオン軍の敗残兵であったが、その意志の統一は万全だと自負できる。
「それともう一つ・・・」
ユリアーノが言葉を続けようとしたが、クレアが何か言いだしたので、それを聞くことにした。
「何だ?」
「はい、サイド3・・・つまりこのサイドの24バンチコロニーに、動きがあります。」
「動き?このジオン共和国で?」
「そのコロニーには治安維持部隊の駐留基地がありまして、部隊が過剰な警戒を敷いています。」
「・・・そう言うことか・・・」
それを聞いて、ユリアーノはだいたいを察した。
「何か判ったのか?」
ホーキンスは、自分の正面で表情を曇らせたリーダーに尋ねた。この男とは6年の付き合いになるが、相変わらず頭の良い男だと感心する。ユリアーノは元々連邦軍人だったが、一年戦争時にジオン軍に下った男である。一年戦争終結後に消息を絶ち、この7年の間にこの組織を作り上げてきた。ホーキンスはユリアーノが接触した最初の仲間であり、同時に組織で最大の理解者でもある。
「ティターンズが共和国からコロニーやア・バオア・クーを徴発したろ?数年前の連邦からの締め付けに、蓄積した不安と不満が爆発したのさ。形式だけとはいえ自治権を得た共和国が、ティターンズに尻尾を振るなんて耐えられないんだろう。」
ユリアーノの意見を聞いて、ホーキンスは頷いて見せた。
「なるほどな、お世辞にも裕福とは言えない共和国から搾取し始めたんだ。今度は何をされるのか、不安でたまらないんだろうな・・・おい待てよ、それが公になるとティターンズが・・・」
「動くな・・・・今はまだ連中は気付いていないだろうが、それも時間の問題だ。まったく、こんな情勢でバカをやってくれるよ。連中が気付くまでに何とかしないと、何の口実にされるか判らないぞ。」
ユリアーノの言葉で、周辺がざわめき始めた。今連邦によるテコ入れがあると、自分たちの組織まで累が及びかねないからだ。ユリアーノにしても、それだけは避けたかった。先の見えていない跳ね上がり共が藪をつつけば、蛇が出てくるかも知れない。その蛇が毒蛇でないと、誰が断言できる?連邦に最後まで媚びるつもりは毛頭ないが、今は不味い・・・ユリアーノは思い、そして決断した。
「エウーゴ参謀本部にこの情報を流して、鎮圧なり説得なりさせるんだ。」
「それだけでエウーゴが動くと思うか?」
「無論、多少の味付けはする。コンペイ島の連中に気付かれたとでも流しておけ。それでエウーゴは動く。」
9月10日、ここグラナダベースのドックに、ティルヴィングの姿はあった。あの激戦でティルヴィングが受けた損傷は見た目も酷かったが内部の損傷はそれ以上であったため、戦闘から2週間以上が経過していてもその傷を完全に癒せないままであった。損傷した艦載MSの修理は帰還して数日で完全に終えている。ログナーはティルヴィングのブリッジの前面にある窓から情景をすぐ外で眺めながら、歯噛みをした。
「まったく不味い指揮をしたもんだ。それにしても、グラナダのメカマンがなんであんなに少ないんだ?」
「さぁ・・・嫌がらせじゃないですか?」
隣で立っていたミカがログナーに書類を渡してから、疲れ果てた言い方で返答した。実際は言い方以上に疲れているが、修理が終われば1日、いや半日でも良い、ゆっくりと眠れる・・・ミカは最後の体力を振り絞ってこの修復作業の管理をしている。
「嫌がらせ?フン、まぁそうかも知れん。人手不足と言うこともあるんだろうが、少なすぎる。これでは完全に修復するまであと2〜3日はかかるぞ。」
ログナーが顎を撫でて、無精に伸びた髭を触る。いつも顎髭だけはきちんと剃ってきたログナーのいつもの清潔な顔ではない。もう何日髭を剃っていないのか、ログナー本人ですら忘れてしまっていた。髭の部分を永久脱毛すると言いかねないと思ったミカが、ログナーの気を今の話題に戻した。
「痛がらせよりも質の悪い冗談ですよね、人がいないって・・・」
「まったくだ。人がいないなりに一つ一つの作業に集中していけば能率は上がるが、所詮は机上の空論だな。それではメカマンの身体がもたん。うちのメカマンはMSの補修で疲れ切っているし、頭が痛い・・・」
ログナーがキャプテンシートに戻っていくと、ミカも自分の席に戻った。その後数分間はブリッジには沈黙だけが存在していたが、不意にミカがログナーに呼びかけた。
「艦長、ロレンス大佐が大佐の執務室でお呼びです。至急来るようにと・・・」
「了解だ軍曹、また任務か・・・ティルヴィングがまだ完全に直ってないのに・・・まったく!」
一言だけ愚痴ると、ログナーはシートから立ち上がってブリッジを辞した。
一通り自分の仕事を終えたショールはエネスを連れて、かつて訪れた和食レストランに来ていた。メカマンやオペレータ以外のクルーには休息許可が下りていたので、緊急の呼び出しでもない限りは1日を自由に過ごすことが出来るはずであった。ショールは正直言ってエリナも誘いたかったが、ティルヴィング修復の指揮を執らねばならなかったので、結局2人で行くことになった。当然ながらショールは最初、エリナを待つと言い出したのだが、エリナの方がそれを拒否した。
グラナダのメカマンだけに任せておけないし、ショールがエネスとじっくり話し合うことでエネスの中にある迷いのようなモノを取り除いた方がエネスの環境のために、そしてエネス自身のためになるとショールに言ったのである。エネスが未だにエウーゴとして正式に戦うことを表明してはいても、それはエウーゴ参加がティターンズを倒すのに一番手っ取り早い手段であったからであって、エウーゴの掲げる正義と自分の掲げる正義の違いを是正したわけではない。ショールは今までのエネスとの会話でそれに気付いていた。
オザシキを店員に希望して空いている部屋に案内されると、2人は座ってソバとその他の料理をオーダーした。そして最初に切り出したのはショールであった。
「どうだ、なかなか良い雰囲気だろう?」
「そうだな・・・」
エネスは素っ気なかった。別にエネスは店が気に入らなかったのではない。
「エウーゴに手を貸すとは言った。だがオレはエウーゴを完全に信用する気にはなれないな。」
そのエネスの言葉は、ショールには耳の痛い話であった。ショール自身でさえ、少しずつではあるが最近のエウーゴの姿勢には疑問を持ち始めていた。ジャブロー降下作戦以来、エウーゴの現場で戦う人間と作戦立案をする参謀本部との見解の相違が出始めている事が気になっていた。エウーゴに参加してからそれまでは、エウーゴの正義が最も自分の正義に近いことを信じてきた。しかし・・・今はどうだろうか?
「気持ちは解る。ティターンズとの全面対決が表面化してからと言うもの、オレはエウーゴの上層部に旧来の連邦官僚と同じ臭いを感じてるんだ。」
ショールは言いながら、オザシキに案内されたときに差し出されていた温かい茶をすすった。
「官僚制と言う制度は元々上下のヒエラルキーを重視している傾向が強く、上に行けば行くほど現場を知らないようになってしまう。しかも上下のそれぞれの階層同士のコミュニケートが非能率的で、しかも構成員の人間性というものが無視される傾向もある。こういう戦時下に等しいご時世であっても連邦の軍や政府の官僚が地球で呑気に茶をすすっていられるのは、そう言う官僚制の悪癖を象徴していることに見えるな。」
「それは同感だな。事務処理を行うことに従事していられる平和なご時世であれば、まだこの官僚制は効果を持ち得たかも知れない。でも今という時代ではどうだ?連邦の惰性に走った官僚が、ティターンズを生みだした母胎だろう。しかしな、エネス・・・今はエウーゴをある程度信用しておくべきじゃないか?スペースノイドのための政治を掲げている点では、オレ達の主義とは相反してないだろう。」
ショールは自分にもそう言い聞かせている。そうでないと疑問を持ったまま戦闘をしなければならず、早死にするのが関の山だろうと思ったからだ。生き残ること、それが最優先であるのがショールの考えである。ショールにしてみれば、主義のための死ぬことやそれを強制することはナンセンス極まりないことなのである。死んで良い思想などありはしない。「人が人として生きることを望めないプライドや主義などクソだ」・・・ショールはそう思っている。
「オーダーはまだかな?」
誤魔化すような口振りで、ショールは目を逸らして小さくいった。
「・・・解った。とりあえずはエウーゴで戦うとしよう。ただし、貴様がエウーゴにいる限りの話だ。」
「そうか・・・解ってもらえて助かる。そして、オレ達のビジョンも少し変更する必要があるな?」
エネスが箸の持ち方を知らないようで、2本の棒を眺めながら言うのを見て、ショールは自分の箸を握ってエネスに見せた。
「貴様がエウーゴに入った時のビジョンは何だ?」
エネスはショールの左手を見ながら、その箸の持ち方を真似た。
「オレは、ティターンズを追い込めば平和維持という仮面の下の素顔をさらけ出して来ると見た。その後ティターンズを断罪して、それを産み出した連邦政府をも断罪する。そして、政府の抜本的改革を促すつもりだった。そうすれば連邦はより宇宙に対する認識を改めてくれると期待しているんだ。」
「なるほどな、それが貴様の真の目的か。オレはティターンズの内部から腐った奴らを排除して、連邦を改革して行くつもりだった。ティターンズの権威が大きくなればなるほど、それは効果的だろう?しかし・・・」
「しかし?」
エネスが口を開きかけた瞬間、オザシキのドアが開いた。オーダーしていた料理が届いたのである。店員がテーブルの上に並べて早々に立ち去ると、エネスは再び口を開いた。
「しかし、ティターンズとそれを産み出した連邦の組織はオレの・・・モートン少佐の認識を越えていたよ。認識が甘かったと反省をしている。」
「いや、違うな。ティターンズは半ば狂気の現れだ。狂気を人間の理性では計れないさ。お前は間違っていないとオレは思うぜ?」
「・・・・・・・・・・」
「話を戻すか・・・今後オレ達は何を目標にすべきだと思う?」
ショールやエネスが憂慮しているのは、保守に凝り固まって宇宙世紀という時代を西暦と同列に考えている連邦官僚の存在であった。
「正直なところ、人類全体が地球を出るべきであると声を大にして言いたい。でも、現実問題として地球から完全に人類を追い出すことは不可能じゃないかな?」
エネスは黙ってショールの意見を聞いていた。更にショールが続ける。
「既に自浄能力を超えて汚染されている地球の復活には人の力が必要だし、人という種が生物の進化してきた姿である以上、人のいない自然は不自然なんじゃないか?」
「それに地球で生まれた文化や風習などもまた、人類の貴重な財産だ。それを守る人たちの存在が人類に地球という母なる惑星への畏敬の念を込めさせる・・・そうは思えないか?」
一通り自分のビジョンを話したショールは、ソバをすすり始めた。エネスはようやく自分の発言をし始めた。
「実際問題として、というのはオレも同感だ。そうだな・・・・人類を地球から追い出すことではなく、より地球圏の広い範囲を見つめながら統制していけるように政治の中枢を先に宇宙へ移すこと・・・これを目標にしてみないか?」
「政治的裏付けも必要になってくるけど、最終的な目的はエネスの意見でオレは良いと思う。しかしまぁ・・・気の遠くなるような話だな・・・」
ショールは苦笑して、エネスも同じ表情をした。
「オレ達の世代だけでは無理だろうな。でも、その土台は作っておく必要がある。とりあえず現時点ではティターンズを潰す。それまではエウーゴという組織の力を利用していくだけだ。その後は、その時になってみないと解らないが議会のコネも必要になるだろうな。エウーゴにいる間に、それはしておいた方が良いだろう。」
「エネス・・・・もしも・・・もしもだ・・・」
「もしも?」
「エウーゴが連邦の連中と同じく惰性に走ったらどうする?ティターンズを倒した後、エウーゴの主張が仮に認められたとしても、エウーゴ主導の連邦が惰性に走る可能性は否定できないぞ?」
「それは当然だな。可能であれば、オレ達で活動する土台も必要かもしれんな。あくまで可能であれば・・・の話だが。」
こういった会話を和食レストランのオザシキでエネスと行い、両者の意見は完全なる一致を見た。そして、後は他愛のない会話をしながら料理を食べていた。その途中で、ショールの懐に入っている小型通信機が安っぽい電子音を鳴らし始めた。
緊急呼び出しを受け、10分ほどでティルヴィングに帰ってきたショールとエネスは、呼び出しのあったブリーフィングルームに向かった。先日の戦闘で初めてエウーゴのパイロットとして出撃したエネスも、今回のブリーフィングに呼ばれている。
「全員揃ったな、緊急の任務が入った。ティルヴィングの補修は不完全だが、出動命令が下った。」
ログナー中佐に並んで前に陣取っているファクターが、ブリーフィングの開始を宣言した。
「サイド3の24バンチコロニーで、小規模だが不穏な動きがあった。治安維持部隊が異常なほどの警戒態勢を敷き、MSが数機、コロニー周辺に配置されていることが確認された。」
そのファクターの言葉は、全員にとって衝撃的であった。コホンと咳払いをしてから、ファクターは続ける。
「それに呼応して、コンペイ島の部隊が暴動になった時を想定しての出撃体勢が整えられたという情報が入った。ヘタをすると暴動に発展する前の段階でティターンズに鎮圧されるかも知れない。」
ティターンズの暴動鎮圧、全員がそこから連想した事実は同じであった。
「30バンチ事件・・・・」
レイが青ざめた表情で呻いた。途端に全員がまたざわめき始める。それを鎮めるように、ログナーが威厳のある声で、わざと大きな声で話し始めた。
「そうならないためにも、我々クレイモア隊で鎮圧する必要がある。それに、ティターンズがこれを鎮圧してしまうと、今度はスペースノイドに対するより強圧的な弾圧の口実になるかも知れない。この任務はただの一コロニーだけの問題ではない。それだけ重要な任務であることを踏まえて欲しい。」
全員が静まり返るのを待って、それを確認するとログナーは続けた。
「情報によれば、旧式のMS10機、ムサイ級巡洋艦1隻が24バンチコロニーに配備されている。まずはこの戦力を殲滅して、彼らの戦意を削ぐ。その後交渉なり武力鎮圧なりすればいい。出来れば交渉で穏便に済ませたいところではあるがな。」
「艦長・・・それではスペースノイドに対して暴力を使ったと言うことで、エウーゴへの不信感を植え込ませる結果になりませんか?」
ショールが挙手した後起立して、発言した。どう考えてもエウーゴの行う作戦ではない。ショールにはそう思えた。いや、ショールだけではなく、その場にいるほぼ全員がそう思ったに違いない。
「しかし、早急な解決を行わないと、ティターンズを調子づかせるだけだ。それに言ったはずだ・・・これは一コロニーだけの問題ではないと。」
ログナーは反論した。これは本意の発言ではないことはログナーの表情を見れば誰にでも解ったが、その反論にも聞くべき点があることも解る。その後、詳細な作戦を打ち合わせして、ブリーフィングは幕を閉じた。
ショール、エネス、そしてレイはブリーフィングを終えた後、士官用のビュッフェでテーブルを囲っていた。
「・・・・・・・・・・・・・」
ショールもエネスも無言でコーヒーを飲んでいた。普段は飄々としているレイの表情も、いつもに比べるべくもなく冴えていない。
「解っちゃぁいたけどなぁ・・・・」
レイはボヤいた。30バンチの二の舞にならないためにも、この任務が必要であることは解る。しかし、納得は出来ない。開き直って命令通りにやれれば、どれだけ気が楽だろうか・・・・レイはそれ以上何も言えなかった。
ショールとエネスは、ログナーの独断で出撃するわけではないことが解っていた。これは参謀本部の命令なのだ。
「いよいよ参謀本部がオレ達を汚れ役に使い始めてきたな。」
ショールがここに来て初めて、言葉を発した。レイは即座にその意味を理解できなかった。
「どういうことだ?」
「エウーゴが大っぴらにこの任務を行うことを避けたんだよ・・・で、秘匿部隊であるオレ達にお鉢が回ってきたのさ。」
エネスが代わって続けた。
「母艦が完全に修復していないのに出撃命令が下ったくらいだ。スペースノイドのための政治を掲げている以上、例えどんな事情があってもこんな事を公の任務では出来ないからな。」
「よく考えれば、元々こう言うことのために結成された部隊なのかもな。」
「なッ・・・!!」
レイは言葉に詰まった。やっかみくらいのことは覚悟していたが、まさか厄介払い以上の汚れ役の押しつけと言うこの任務は、気の利いたジョークではない。
「しかし、やるしかないな。これをやらないと、確かにティターンズにとっては格好の口実になる。それは避けなければな。」
エネスは静かに言うだけだった。元々こうなるくらいのことは予想していたのである。しかし、予想していたとは言え実際に遭ってみると愉快な道理はない。
「・・・・・・・・・・・」
ショールはただ無言だった。
第22章 完 TOP