第35章 離 反

 10月29日の夕刻を前に、ティルヴィングが停留しているドックに数個の大きなコンテナが搬入されていた。その大きさたるは、積載力の高いティルヴィングのモビルスーツの運用に必要最低限のスペースを除いての大半が埋まるほどのモノだ。その搬入を指揮したのは、アナハイム・エレクトロニクスのマコト・ハヤサカであった。
「いやぁ、間に合って良かった良かった。”これ”が出来上がったのが、今朝早くでね。搬出するのに骨を折った。」
 笑いながら、すぐ横で視察していたエネスに話しかけた。
「・・・とにかく礼を言う。これがなければ、オレ達は生き残れないかも知れないからな。」
「大袈裟だな、大尉。これが無くても君の”計画”には成算があったはずだ。オレの仕事はそれを助けることだけだ。」
 そのすぐ横を通り過ぎていったレイは、納入された”それ”を見上げながらも、2人の会話に耳を傾けていた。ハヤサカの言う”エネスの計画”というのを知らなかったので、レイの好奇心は自然と傾くのだ。
「レイ、立ち聞きをするくらいならこっちへ来い。まったく、手癖が悪いのは女に対してだけじゃないようだな、相変わらず。」
 そう呼びかけたのは、アナハイム時代の上司であるハヤサカだった。知らず知らずのうちに視線が自分の方へ向いていたのを、ハヤサカが敏感に察知したのである。
「それで主任、これは何なんです?」
「このびっくり箱を開けたときのお前の顔を直接見るのが出来ないのは悔しいから、想像して笑ってやるさ。」
「玉手箱だったりして。」
 返したレイは隠さずに笑った。ハヤサカの言うとおり、確かに楽しみではある。実のところこのレイ・ニッタ、ハヤサカのそういう遊びに対して労力をいとわないところが大好きだったのである。
「このびっくり箱を使うときこそ、全ての始まりってわけですか・・・」
 そこで少し、レイは少し真面目な顔をして言った。それだけもったいぶると言うことは、奥の手、つまり自分達の命運をかけた大博打であるということだ。
「ま、お前ら次第だけどな。」
「これでつまんねぇもんだったりしたら、恨みますよ。」
「ははは、そりゃいい。そうしてくれ。」
 それを横目に、エネスは無言でコンテナの搬入作業を見ていた。このコンテナこそ、ハヤサカを自分の仲間に引き込んだ理由そのものなのである。

 コンテナの搬入作業を終えたティルヴィングは、ハヤサカに見送られながら出航した。今回の出撃のことを艦内に通達してから既に3時間が経過しており、予定より1時間の遅れが生じていた。その遅れが新たなる歪みを生むのは当然の成り行きであるかも知れない・・・と、エネスやログナーには思えていた。艦内にいるクルーの数は元の人数の半数を少し越えたくらいで、残りの人員はグラナダに残留していた。それゆえ、このたびの出撃の情報がエウーゴ参謀本部に届くのは時間の問題だった。
「よし、メインスラスター点火、出発する。」
「了解」
 ブリッジクルーが誰一人として離脱せずにいたのを、ログナーは嬉しく思った。これで最低限の運行に支障をきたすことはない。自然とログナーの号令には、力が入っていた。
「グラナダの警備部隊が来るぞ、エストック隊を発進させろ。フランベルジュ隊は予備兵力として待機!」
「了解。ファクター大尉、前方を警戒、妨害戦力は実力で排除して下さい。」
「よしきた。ファクター、リックディアス出る!」
 既に待機中であったファクターは、ミカから送られた通信に即応した。エネスとレイもまた、既に待機中である。
「エネス大尉、ご武運を。」
「了解だ、軍曹・・・艦長、”びっくり箱”はいつでも使えるようにしておいて下さい。リックディアス、出るぞ!」
 ハヤサカが咄嗟に名付けた名前をコードネームに仕立てて言い、ログナーは無言で頷いて出撃を促した。それに続いて、レイが出撃した。

 2機のリックディアスとゼータプラスCA2型”マイン・ゴーシュ”はティルヴィングの前方を進み、先にグラナダの宇宙港を出ていた。左右にエネスとファクターのリックディアス、中央にレイのマイン・ゴーシュという布陣である。
「エストック・アルファからベータ、ガンマへ。オレ達がグラナダを出発することは、既にエウーゴの連中は気付いているはずだ。妨害のモビルスーツが出て来る。注意しろ。」
 アルファは、隊長機であるファクターのリックディアスである。ベータがエネス、ガンマがレイというコードになっていた。ナリアが戦死したときはエネスが指揮官であったため、便宜上アルファを名乗っていただけのことだ。
「しかし、ホントに見送りがあるんですかねぇ?」
 レイは、その可能性をあまり強くは信じていなかった。そもそも、ただでさえ警備の薄いグラナダの警備のいち部隊程度に阻止されるようなクレイモア隊ではない。それとも何か、罠でもあるのだろうか?
「さぁな・・・おっと、噂をすれば・・・」
 次の瞬間、グラナダの宇宙港出口を出てすぐ、真正面からジムIIが4機ほどが接近してきていた。その先頭を行く機体から、光の点滅による光信号を送信していることが分かる。通信状態の悪い状態での連絡に用いる、視覚的なモールス信号のようなモノだ。
「出撃命令は出ていない、すぐさま引き返せ・・・か。グラナダへのコロニー落としの時と同じだな。敵は4機・・・ガンマ(レイ)は突っ切れ。オレとベータ(エネス)は左右を叩く。返事をするのも馬鹿馬鹿しい!」
 ファクターはレイに中央突破を命令し、すぐさま復唱が返ってきた。
「了解!・・・”祭り”の始まりは派手に行こうかねぇ。」
 久々の戦闘を”祭り”と称したレイであったが、他の2人にはそれを評する時間はなく、即座にエストック隊は互いの距離を少し縮め、射撃の用意をした。4機のジムIIは菱形の陣形を組んで接近しており、既にマイン・ゴーシュのビームスマートガンの射程距離内に入っていた。
「オラァッ、行け!」
 ファクターの号令があって、レイ機がまず射撃を開始した。それをあらかじめそれを予測していたのか、敵のジム隊は両翼を左右に展開し、真ん中の2機は後退を始めた。半包囲体勢に入る兆候であるのは明白だった。数に勝る側の戦術としては、セオリー通りだ。
「包囲しようってのか、しゃらくせぇ。こっちも行くぞ!」
 包囲されようとしているにもかかわらず、ファクターとエネスは左右に散った。
「確実に仕留める!」
 気合いの声と共に、エネスの『死装束』がファクター機よりも先に二連装ビームガンを連射した。その射撃は正確を極め、一撃目でジムの右腕を破壊して反撃する能力とバランスを失わせ、その次の攻撃で胴体部を直撃させた。普段は無口なエネスがそのような気勢を発するのは、かなり珍しいことである。それだけに、これからの戦いへの意気込みが現れていると言えよう。エネスが1機のジムを屠っている間に、ファクターは接近戦で自分の担当する敵機を撃墜していた。
 一方、モビルスーツ形態のまま突進したマイン・ゴーシュは、最初の射撃が失敗しても間を置かずに左腕のビームサーベルで片方のジムを破壊していた。残る1機も、機動性に優れたレイ機を捉えることなく、背後からのビーム攻撃で四散した。戦闘に要した時間はわずか2分、数ヶ月ものブランクのある部隊としては上々の戦果だった。
 その10分後、ロレンスはその戦闘の結果の報告を、副官から受けていた。
「そうか、やはり牙を剥いたか・・・かまわん、好きにやらせておけ。」
「しかし、4機程度のジムでは・・・」
「フン・・・最初から期待などしてなかったさ。」
 ロレンスは副官に全てを語ることなく、通信を切った。要はクレイモア隊がエウーゴの部隊に対して攻撃したかどうかが問題であって、そして連中は仕掛けた。これで正式に、連邦への叛逆の意思有りとみなして攻撃する大義名分が出来たことになる。ロレンスはこの瞬間をこそ、待っていたのである。直後、再び通信回線を開いたが、今度は別の相手が出た。
「ルナIIの部隊に連絡をとってくれ・・・あぁ、予定通り連中が造反した。かねてよりの計画に従って、編成した討伐部隊の準備ができ次第、サイド4に向かって出動させろ・・・そうだ、地球に向かうコロニーに先回りするだろうから、いずれかち合うことになる。旗艦は・・・ニューデリーだ。」


 先発したエストック隊が妨害を排除して帰還すると、ティルヴィングはすぐに月の引力圏を離脱するコースを取った。月の裏側であるグラナダからサイド4まではおよそ半日、サイド4を通過してからコロニーに追いつくまで丸1日の行程である。
 最初の戦闘以来、月の引力圏を離脱するまで戦闘はなく、ログナーはサイド4の宙域を通過した時点でパイロット達をブリーフィングルームに召集した。既に時刻は10月30日も終わりに近付いたときだった。
「情報によれば、このままいけばあと14時間でコロニーが落着する予定だそうだ。」
 このログナーの切り出しで、早くもクルー達のざわめきが起こり始めていた。時間はぎりぎり間に合うかどうか、である。
「現在、ティルヴィングはサイド4の宙域を通過しているところで、コロニーの現在位置は・・・」
 正面の大型ディスプレイに、サイド4から地球への航路図が表示された。コロニーを示す赤い点は、既にサイド4と地球を直線で結んである線の中間点を越えている。
「ここだ。そして、本艦は最大船速でコロニーに接触できる最短航路を進んでいる。コロニーの速度よりも当然、ティルヴィングの方が速く、このまま順調に行けば9時間後に追いつく。コロニー管制室へは前面の宇宙港ブロックから侵入を果たすことになるので、一度はコロニーを追い越さねばならない。したがって、コロニーを目視できる位置に到達した時点で迂回し、2時間後にコロニーを追い越した後、コロニー前面よりモビルスーツ隊を侵攻させる。つまり、今から11時間後に作戦開始と言うことだ。」
 ここでログナーは話を切ってパイロット5人の顔を見回すと、それぞれ各人なりの覚悟を伺い知れるような気がした。
「コロニー落着までの3時間だけ余裕がある・・・ということですか?」
 ナリアの実弟、マチス・コーネリアが挙手をして質問した。マチスがこの艦に残った理由の中には、ナリアの敵討ちをしたいという意思は確かにあったのだが、それは彼自身の中ではそう大きくはない。姉を戦死させた兵士は彼女に道連れにされ、直接的な敵討ちの実行ができなかったこともあり、それがかえって敵討ちへの執着をさせなかったと言えた。もっとも、”姉は自分の意志で戦って死んだ”と割り切れるほど姉弟の関係はサバサバしていなかったのも事実であった。ナリア・コーネリアという女性は、決してエネス達ほどの純粋な主義者ではなかったので、マチスが継承するような大層な理想などなかった。
「自分には戦うことしかできないから、世界を救うために少しでも力を貸すんだよ。」
 と、亡き姉が、弟に言ったことがあった。自分の意志で戦う者の宿命を知っているがゆえに、彼女はそんな格好の良い台詞を吐けたのだと今更ながらに思う。
 そんなマチスの質問に、ログナーは首を横に振って、ディスプレイに新たなラインを表示させた。地球よりやや外側に位置するそのラインをポインタで指し示しながら、説明を始めた。
「いや、コロニーは作戦開始から1時間後にこのラインに辿り着き、その2時間後に落着する計算になる。つまり我々は、1時間以内にコロニーの管制室に潜入して核パルスエンジンを操作、軌道を変更させねばならない。このラインは正式には”阻止限界点”と言われているが、今回は(ゴール)ラインというコードで称する。」
(もう少し時間的余裕があれば、敵の妨害戦力を排除する時間も考慮に入れられるのだがな・・・)
 と、心の中で付け加えていた。
「もし、そのGラインを超えてしまったら、コロニーほどの大質量物体の落下を阻止する方法はない。このラインに到達するまでの1時間が勝負だと思ってくれ。それを過ぎた時点で、作戦は失敗だ。」
「接触から、たった1時間しかないのか・・・」
 ファクターの呻きは、当然である。敵防衛網を突破してコロニー前面の管制ブロックに侵入、更にコロニーの軌道修正の操作までを、1時間以内にやらなくてはならない。これを成功させるのは、ほとんど神業と言っていいほどだ。
「こちらも少しでも時間的余裕を持つために、最大船速で向かっているが・・・あまり期待はするな。ほぼ予定通りだと思え。またGラインを通過した時点で、目標地点に落下させるよう軌道修正の作業をする必要があるため、ネオジオンは少なからず機動戦力を配備しているはずだ。他に質問は?」
 続いてレイが発言を求めた。
「それで、この作戦が成功したにしろ失敗したにしろ、オレ達はどこに還れば良いんです?」
”帰還する先はグラナダに非ず”
 ログナーがグラナダ出発直前までクレイモア隊の離反をクルー達に隠していたのは、情報が漏れることを恐れてのことだというのは、エネスとファクター、そしてレイだけしか知らない事だ。しかしここまで来た以上、その心配は無くなったと言っても良かったので、レイがそれを通達するきっかけを提供したのである。
「・・・サイド2だ。」

 9時間が経過した10月31日の朝8時40分、ティルヴィングは予定通りにコロニーを目視可能な距離にまで接近すると、コロニーを迂回するコースを取った。
 そのとき、エネスはメディカルルームを訪ねていた。レイも同じ考えだったらしく、イーリスの横に立っていた。その目の前には医療用ベッドがあって、今は上半身をイーリスに起こされて長座の姿勢になっているエリナの姿があった。
 エリナの目は開かれていたし、まばたきもしている。しかし、彼女が何を見ているのか、いや、意識的に視線を前に向けているのかどうかさえも、周辺の人間には理解しかねていた。
「エリナ、行ってくる。」
 エネスはそれだけを言ってイーリスに一言二言の挨拶を済ませると、出撃準備のため一足先にモビルスーツデッキに向かった。そんな後ろ姿を、イーリスは不安そうに眺めていることしかできなかった。
「不安か、イーリス?」
 レイの言葉に、イーリスは振り返った。
「兄さんは出撃前に、こんな事をする人じゃなかったのに・・・」
 それで死んだら映画だな、とレイは思った。
「あぁ、それでか。大丈夫だって、オレや他のみんなもいるんだ。ちゃんと生きて帰ってくるさ。アイツにはやらなくちゃならないことが、まだ沢山あるんだよ。」
「そう、そうね。みんなで生きて帰ってくるのよね。レイさんも、生きて帰ってこなくちゃいけないわ。」
「何を言い出すのかと思えば・・・そんなにあったり前じゃない。やらなくちゃならない事はオレにはないけど、やりたいことはまだまだこの世にあるんでな。」
 レイの自信たっぷりな応答に、イーリスは少し安心したようだった。この男がいつも同じでいてくれるのは、彼女に根拠不明な安堵を与えるのである。
「例えば?」
「そうだな・・・君がもう少し大きくなって、一緒に酒を呑むことかな。」
 元々の性格もあるのだが、この辺はナリアの影響を知らず知らずのうちに受けているのを、今なら自分で解るような気がした。男を知って女が変わるように、女を好きになって男が変わることもあるんだなとレイは感慨深く思った。その複雑なレイの表情を見て、イーリスはなぜか笑えてきた。
「まだ私は子供だものね・・・でも、一緒に酒を呑みたいっていうのは、誉め言葉として受け取っておくわ。」
「勿論そのつもり。さて、と・・・そろそろ行かなきゃな。君のお兄さんが”角を長くして”待ってるだろうから・・・と、その前にオレにお守りをくれよ。」
「私は何もあげられない・・・」
 イーリスが言いきる前に、レイはそっと触れるようにキスをした。初めての感覚に一瞬、戸惑いを見せたが、すぐに我を取り戻して驚きの眼差しを向けた。
「これで、生きて帰れるような気になってきた。よし、いっちょ気合い入れて行ってきますか。」
「・・・行ってらっしゃい。」
 混乱のあまり言葉を見つけられず、イーリスに言えるのはこれだけだった。気付くとレイの姿は既になく、すぐにエリナの看護に専念しようとベッドの横へ戻った。そんな彼女の後ろから、ぬっと姿を現したのは、この艦の軍医であるカンダだった。
「・・・まったく、バカに処方する薬はないのかな。」
「ナリアさんが彼を好きになった気持ち、なんとなく分かるんです。あの人はアレで良いんですよ。」
 顔を真っ赤にしながらも自分を取り戻し始めたイーリスを見て、いい人であるということと男の魅力とは無関係なのかな・・・と、独身のカンダは思った。

 その頃、ロフト・クローネは困惑していた。エンドラIIよりも半日分ほど先行していたシンドラがサイド4を通過した辺りから、遙か後方にコロニーが見えていたのである。シンドラはこのコロニー移送を確認したときから、進撃する速度を落としていた。それゆえ、最初は丸一日ほどの差があったコロニーとシンドラの距離は、互いになんとか目視できる程度に縮んでいた。
「ネリナ、あのコロニーを・・・どう思う?」
 副官であるネリナ・クリオネスを横目で身ながら、クローネは言った。
「ハッキリとは言えないけど・・・コロニー公社の移送じゃないの?」
 宇宙空間では物体同士の距離感を掴むのは難しく、地球上では見えなくとも、宇宙空間では距離次第でくっきりと見える。最初はクローネも、それをコロニー公社が行っているモノだと思っていた。しかしそのコロニーは、シンドラの通った進路をそのまま進行しているように見えるのだ。サイド4と地球の間にコロニーサイドは存在しない以上、コロニー公社が移送するにしてはあまりに不自然過ぎたのである。それに、ハマーンとマシュマーが自分に何もかも秘密にしていたことも、気にかかっていた。
(ハマーンがオレには言えないこと・・・!?)
 この時になって、クローネはその2つの不審な事象が繋がっているかも知れないと言う、そこはかとない不安を覚えだしていた。
(コロニーの進路は、このまま行けば地球・・・まさか!)
 コロニー落とし・・・それは、かつてジオン公国軍の軍人として戦ったことのある人間であれば、当然のように連想される単語であった。ましてやクローネは、毒ガスやコロニー落としという事実上の無差別攻撃を無条件に忌避している人間であったから、内心で憎悪している人物の行為と非人道的行為を同一視したがる心境になるのは無理からぬ事だった。しかし、この場合、クローネの偏見は正しかったと言えよう。
「・・・しまった、シンドラの進撃を中止、すぐに引き返すぞ。」
「どうして?」
「とぼけているのか、それとも本当に分からないのか、どっちだ?」
 ネリナの表情は、後者という回答を示していた。
「コロニー落としをするつもりなんだ、そうに違いない!」
「待ってよ、それは憶測じゃないの。それに、マシュマーの指示に従うように言われた以上、マシュマーの命令はハマーン様の命令なのよ。あなたこそ分かってるの?」
「決まっている!この際言っておくが、オレはハマーンの下僕になったつもりはない。あくまで同志だ。押しつけがましく命令される筋合いはない。それが嫌なのなら、今すぐにこの艦を降りるんだな。」
 2人の問答は、途中でオペレータの報告によって中断させられた。
「大尉、後方より所属不明の艦艇が一隻、こちらに接近中です。」
「こんな時に・・・分かった。モビルスーツ隊を発進させろ。シンドラは180度回頭、コロニーの方へ引き返すぞ。オレもシュツルムで出る、ネリナ、後を頼む。」
「了解。」
 言い合っている場合ではないことを、ネリナは悟った。敵艦はもうすぐ後方にまで接近して、モビルスーツ隊を発進させていたのである。

第35章 完     TOP